日大闘争の個人的な原点 戻る

経済学部校友会ホームページから転載

 

日大闘争の個人的な原点

冒頭に掲げた経済学部旧校舎の写真をよく見ていただきたい
筆者が大学入学時に訪れたときには、すでに相当に古ぼけた建物だった

入学の手続きで始めて学部を訪れたときのことだった
用を済ませて、見物のため一階の階段を上ろうとしたときだった
古風な造りのアールヌーボー風の曲線形状の階段の踊り場のところに黒い闇が帳のように降りているように思えて思わず立ち止まった
その闇を見つめていると、そこに何者かの気配を感じたのだ
そいつは声のない声で私に語りかけてきた
脳髄の中に直接語りかけてくる
「来るな。お前はここに来るな」、と…
「冗談じゃない…ふざけるな、」私は小声でそいつに語りかけたあと、しばらくその気配の主と睨み合っていた
時間にしておそらく数秒のことだったろう
不意にそいつの気配が消えた
私にはそいつがきびすを帰して逃げ去ったように見えた
私はついにその階段を登らずに校舎を後にした
入学のための用件は既に済ませていたからだ
それだけの話である

その後、私はそのことをすっかり忘れていた
日大闘争が頂点に登りつめた頃、同輩のMTとともに新調したばかりの巨大な真紅の全共闘旗を掲げるために占拠した新校舎の屋上に登り、ポールに日大全共闘旗を結びつけた後、しばしMTと話した
夕方の空は少し赤みを帯びて、水道橋駅のはるか向こうに東大安田講堂の黒旗と赤旗がはためいていた
ひとしきり闘争の話などしてから、ふとMTが言った
「俺たちは何でこんな巨大な闘争の中心にしかも執行部員としているのだろう。俺にはそれが不思議でならない」
「…………」私は答えに窮して黙っていた
その時ふいに3年前の些細な出来事を思い出した
旧校舎の暗闇で得体の知れぬ魔物に出会ったことを…
そのことをMTに話してみた
彼は理解不能の表情をして黙っていた
その瞬間に、私はあの魔物の正体を理解した
「あれは出会うべき敵権力と世の矛盾の正体そのものだったのだ。だからそいつは俺に来るなと言ったのだ」、と…

そのずっとあと、社会人となっても地区反戦の運動をだらだらと続けていて、ついに本当に社会復帰したとき、若い時に出会った魔物の正体は、実は悪魔の使いではなく、天=正義の使いではなかったのか?」と思うようになった
なぜなら、死ぬような思いをしたけれど、正義のたたかいである日大闘争を戦い抜いたのは、そいつが来るなといい、へそ曲がりの私が来るなと言われれば行くという事を、そいつが知っていたからに違いないと思うようになった
今もこの文章を書かせているのは、その昔経済学部でかつて出会ったあの魔物であるかもしれない

以上は信じられないかもしれないけれど、私が遭遇した本当の話なのです 2003−5−4

 

S○(1968経・短学生会)      

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